人の心を震わせ、永遠に記憶される最高の瞬間。
その舞台裏には、ひとりのプロデューサーの静かな哲学が宿っている。
新連載『トッププロデューサーの思考』は、ウェディング業界のトップランナーたちを訪ね、その思考の源流を旅する思索の記録である。
第一回は、GOOD WEDDING AWARD 2025 でグランプリを受賞したWEDDING LAPPLEの東 佐江子氏。「結婚式は1日でやるもの」という既成概念を超え、3日間をかけて創り上げた結婚式は、多くの人に問いを投げかけた。あの経験を経て、時間をかけて言葉になってきたこと。対話の中から、結婚式の本質的価値と、プランナーという仕事の核心を、改めて辿ってみた。
※本取材は2025年9月に実施した内容となります。
プロフィール紹介
東 佐江子様 / WEDDING LAPPLE
結婚式の「時間の設計」と「場づくり」を軸に、過ごし方を起点にプランニングするウェディングチームを運営。打ち合わせから、当日キャプテンまで一貫して担う体制にこだわり、人と人の気持ちが通い合うことを大切に現場づくりをしている。又、準備期間を通して、新郎新婦自身がこれから「どう生きていきたいか」を言語化していく事で、この節目をキッカケに意思をもって未来に進めるような、寄り添い伴走するスタイルにもこだわっている。

仁藤 なお子氏 / ウエディングプランナー
ニューヨークの大学卒業後、ホテルウエディング企業に入社しブライダル課へ配属。結婚式の仕事に魅了される。ホテル時代には支配人を経験。人事業務も兼任後、ゲストハウスでチーフプランナーとして活躍し独立。20年以上の経験を活かし、フリーランスとして結婚式のプロデュースやプランナー育成、式場コンサルティングを行う。GOOD WEDDING AWARD2022グランプリ受賞。

第1章:受賞を振り返って見えた「プロデュース」という価値
仁藤:
改めて、グランプリ受賞おめでとうございます。受賞後、周囲の反響やご自身の心境に変化はありましたか?
東:
ありがとうございます。
受賞後にいただいた声の中で印象的だったのは、これまで関わってきた方々や、業界の中にいる方たちからの反応でした。
前職から独立して10年が経ち、会場を持たずにプロデュースをするという在り方について、式場や業界の方々とあらためて共に見つめ直すきっかけになったように思います。私にとっても、大きな出来事でした。
結婚式場は「箱そのものが商品」であり、そこに携わる方々の強みが重なって、式場ならではのウェディングプロデュースの価値が生まれます。
一方で私は、会場を持たず、毎回異なる場所でオペレーションをゼロから設計して式をつくってきました。リスクもありましたし、結婚式場では当たり前にできることがスムーズにいかない場面もありました。
だからこそ、以前は「本当に良いものが作れるのか」「小手先ではないか」と”自由”や”オリジナル”がマイナスに受け取られているように感じる出来事もありました。
それでも、仕組みのないところに仕組みを整え、実行していく運営力や技術、そしてその場に必要なことを察知する感覚を積み重ねてきたことが、会場の枠にとらわれずに時間を設計していくための土台になっていたのだと、今回あらためて気づかされました。
この経験を通して、結婚式場での結婚式と、プロデュース会社が行うプロデュースの、それぞれの本質や価値を、対立ではなく並び立つものとして見つめる機会にもなったのではないかと感じています。
仁藤:
受賞後、具体的にどのようなお声が印象に残っていますか?
東:
「もう一度挑戦してみたくなった」と声をかけてもらえたことは、とても印象に残っています。
もし、私の経験が誰かの背中を少しでも押すきっかけになれたのだとしたら、本当にうれしいことだと感じました。
また、最終プレゼンの後に、以前から私の歩みを見てくださっていた方とお話しする機会がありました。
その中で、15年ほど前に私が取り組み始めた「家族対面」や「ファーストミート」のことを覚えていてくださっていて。当時はまだ一般的ではなかった家族との向き合い方が、時間を経て自然に広がっていったことを知り、自分が大切にしてきたことは、ちゃんと意味があったのだと感じて、胸が熱くなりました。
仁藤:
フリーランスになると、どうしても評価される場が減ってしまいがちな中で、これまでの歩みがこうして形になり、次の世代の挑戦につながっていく。その循環が見えた瞬間のお話を聞いて、私も胸が熱くなりました。
第2章:ゴールから逆算する情景設計 ―3日間のウェディングは「必然」だったわけ
仁藤:
1日という概念を超えた「3日間のウェディング」は、どういった経緯でアイデアが生まれたのでしょうか?
東:
実は「チャレンジ」という感覚では全然なくて、私の中では自然と「必然」だと受け止めていました。会場が固定されていないからこそ、お二人の情景を思い浮かべたときに、ルーツである沖縄、今暮らしている愛知、そしてご家族との関係性を一つの場所に集約するのは難しいと感じていて。だからこそ、私たちがそれぞれの土地を訪れ、その場所で生まれる時間を大切にしたほうが良いのではないかと考えたんです。
仁藤:
フリープランナーだからこそ生まれた「必然」だったんですね。東さんのプランニングの根幹には、どういう考えがあったのでしょうか。
東:
私がどの結婚式でも共通して大切にしてきたのは、「新郎新婦がこの先、二人で歩んでいくための糧になる日」をつくることです。そのためには、まわりの人たちからの「おめでとう」「頑張ってね」といった祝福や応援の気持ちを、心で受け取れる体感がとても大切だと感じてきました。誰かの想いが届いてこそ、その日の出来事が、二人にとって意味のある記憶になるからです。
だから、お二人が心から祝福されるにはどんな場所が良いのか、どんな時間が流れていると自然に気持ちが重なるのか。その「過ごし方」の設計を、丁寧に考えていきました。
仁藤:
奇跡や偶然に頼るのではなく、望む情景を生み出すために「仕掛け」をつくっていくんですね。新潟、岐阜、沖縄。それぞれの場所での目的と設計を、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。
東:
はい。情景をつくるうえで、どんな人が集まり、どんな時間が流れると良いかを軸に考えていました。
まず新潟は、新婦家のみなさんに向けた時間として設計しました。「おばあちゃんに晴れ姿を見せたい」という想いが出発点です。最終的には、ご家族の関係性をそっと結び直すことをゴールとしていました。
白無垢のお披露目当日に気まずさが残らないよう、前日にご実家でアイスブレイクを兼ねて居酒屋へ。スタッフも最初だけ同席し空気を整え、その後はご家族だけの時間にゆっくり委ねました。最後は仏間で手紙を読む時間をつくり、ご家族の心が自然と祝福に向かう「流れ」を整えてから本番の日を迎えました。
沖縄は、両家の心を祝福の方向へ揃えていくための時間として設計しました。ルーツでもある沖縄でお二人だけで誓い、そのあと両家が混ざって交流する流れにしました。旅行の延長のような雰囲気になる懸念もあったため、事前に新郎家へ「この日は二人を祝うための日」であることをしっかり共有し、節目としての意識が整うよう準備をしました。
最後の岐阜は、ゲスト全員が「祝い手」になる空間を目指しました。新郎新婦が望む空気感を実現するにはどうしたら良いかを中心に組み立てました。例えば、事前にゲストとスタッフで運動会を行い、同じ方向に向かう気持ちを育てたり、当日の演出ではゲストと個別に気持ちをすり合わせる時間を意図的につくったり。一つひとつの仕掛けの積み重ねによって、一体感が自然と生まれるように設計しました。
仁藤:
なるほど…!「自然発生的な盛り上がり」の裏に、これほど丁寧な土台づくりがあったんですね。
第3章:現場で大切にしてきたこと ―「感情を読み取る力」と「空気を作る力」
仁藤:
その緻密な設計が、人の心が動く体験へと昇華されていく様子が、お話を聞いていてとても伝わってきました。東さんが現場で大切にしてこられた「現場力」の核心は、どんなところにあると感じていらっしゃいますか。
東:
私が大切にしてきたのは、「感情を読み取る力」、そして「どうすれば自然とあたたかい空気が生まれるのか」を考え続ける力だと思っています。
私たちが作り込みすぎるというよりは、どんな場づくりをすると、その空気が自然と立ち上がってくるのか。そこを予測しながら整えていくことを、ずっと意識してきました。
また、かつて尊敬している司会者から「一緒にお風呂に入っているような感覚で対話をしていく」とアドバイスをいただいたことがあります。
デスク越しに向かい合う関係ではなく、気持ちを打ち明けてもらえる距離感にいること。その関係性があって初めて、より良い提案につながるのだと感じてきました。
仁藤:
東さんは常にカップルのために「枠」の外に出ようとされているように感じました。AIにはなかなかできない現場力だと思います。あのとき、どんなことを意識されていたのでしょうか。
東:
もちろん会社の仕組みや環境にも影響される部分はあると思います。でもそのうえで、一番大きいのは「全員でいい結婚式を作る目線を揃えられるかどうか」だったと感じています。
プランナー個人が踏み出す勇気はもちろん、「良い結婚式をしておいで」という姿勢で現場の背中を押してもらえると、目の前のおふたりにとって本当に良い時間をつくることに、まっすぐ集中でき、お客様にとっての最善の現場を生み出せるのだと思っていました。
第4章:東佐江子の源流 ―なぜ「誰かの節目」を創り続けるのか
仁藤:
東さんの結婚式に対する哲学は、どのように培われてきたのでしょうか。そもそも、なぜプランナーという道を選ばれたのですか?
東:
元々、音楽や「みんなで一つのものをつくりあげる時間」が好きだったんです。そんな時に偶然ウェディングプランナーの特集を見て、直感的に「やってみたい」と思い、専門学校に進みました。
就職活動では、自分をアピールすることがあまり得意ではなく、志望していた会社にはすべて落ちてしまったんです。最後に、新卒採用を始めたばかりだった前職から、一貫性のプランナー採用のご縁をいただきました。今振り返ると、本当にあの頃は幸運な時代ということもあり「熱意」で採用していただいたように思います。
仁藤:
そこからキャリアを重ねる中で、転機になったと感じる出来事はありましたか?
東:
とある大きな音楽イベントを企画するプロデューサーに、「プランナーがいなくても結婚式は作れる」と言われたことがありました。その言葉に悔しさを感じたのですが、続けて「でも俺にはプランナーはできない。人(個人)に深く寄り添うことはできないから」と言ってくださって。その瞬間、私が極めていきたい方向が自然と見えた気がしました。
そして、決定的な転機は自分自身の結婚式です。準備に追われてしまい、肝心の「誓い」についてしっかり向き合う時間が持てないまま当日を迎えてしまいました。支度中に慌てて誓いの言葉を作ったのですが、表面的なものになってしまって…。式はとても幸せなものだったのですが、後日夫と話した時に「私たち、誓ってないよね」と気づいたんです。
そこから、「誓いとは何か」「節目をどうつくるのか」が、私にとってずっと考え続けたいテーマになりました。
仁藤:
「誰かの節目を創る」という東さんの軸は、そういった経験の積み重ねの中から生まれてきたんですね。その根っこにある想いを、もう少し聞かせていただけますか。
東:
結婚式はあくまで「手段」であって、私がつくりたかったのは「心が動く体感を通して、この人生でよかったと思える機会」だと感じていました。そのために、おふたりが「これから」を歩んでいくための節目をそっと整えること。そのための一つの方法として結婚式がある、という感覚でずっといました。
ある時、ふと「卒業式って、内容はほとんど同じなのに、なぜあんなに涙が出るんだろう?」と考えたことがありました。「仰げば尊し」を歌っている時に泣けてくるのは、歌や演出に感動しているというより、その歌を通して、青春時代の記憶と思い出が甦り「同じ気持ちになる時間」があるからだと思ったのですよね。
一人ひとりに「卒業するんだ」という心の準備があり、テンプレートであっても、その時間が節目として機能している。そのことに気づいたとき、「節目には心の準備が必要なんだ」と深く腑に落ちました。
手段は違っても、「誰かの節目を創る」という根っこはずっと変わっていません。
仁藤:
プランナーとして積み重ねてきた中で、特に大切にしてこられたことはどんなことでしたか?
東:
大きなことでも、小さなことでも良いので「体感」を積み重ねることだと思います。実際に空間に立つことでしか磨かれない感性があると、ずっと感じてきました。
そしてもう一つは、腹落ちするまで「理由と方法」を考え抜くこと。中途半端な手法ではなく、自分が納得できる形でやりきる。その積み重ねが、結果としてプランニングの精度につながっていくのだと思います。
第5章:現場で見えてきたこと、これからも大切にしたいこと
仁藤:
これまでの経験を通じて、業界全体に対して感じてこられたことや、これからも大切にしていきたいと思っていることを、聞かせていただけますか。
東:
同じ結婚式づくりに携わる一人として感じてきたのは、「現場への理解を持ち合う姿勢」がとても大切だということです。
「プランナーが現場を回るべき」という意味ではなくて、現場の空気や流れを少しでも知っていると、関わる人同士の連携がよりスムーズになり、同じ方向に向かいやすくなると感じてきました。
自分が現場に立つ立場ではなくても、どう連携を取り合うと良いのか、どんなゴールを共有すると心地よい動きになるのか。分業制であっても、一つのチームとしての一貫性が生まれることが、ゲストの感情を扱う仕事においてはとても大切なんだと、ずっと思ってきました。
一方で、変わらずにいてほしいと思っていることもあります。この業界には、人の幸せを願い、人のために尽くすことを誇りにしている方がたくさんいます。
私自身、そういう方々と一緒に仕事をしていると「自分も大切にしたいものに立ち返れる」瞬間が多くあって、その温度に救われることもありました。
結婚式は、人と人でつくられるもの。
誰かを大切に思う気持ちがあるからこそ、心からの祝福が生まれるのだと感じています。
迷ったときも、そんな人たちの存在が原点に戻してくれる。だからこそ、これからも「人を大切に思える人たちと一緒に働ける環境」があり続けてほしいなと思っています。
編集後記
生成AIがあらゆるクリエイティブを瞬時に生み出し、DXが業務の隅々まで効率化を進める。そして、少子化や生産年齢人口の減少が、社会構造そのものを静かに、しかし着実に変えていく。私たちがいま立っているのは、そんな変化の大きな潮流の真っただ中です。
ブライダル業界も、その例外ではありません。これまでプランナーが担ってきた仕事のなかには、遠くない未来、テクノロジーによって代替されてしまう領域もあるかもしれません。では、その先にプランナーの仕事は、どこへ向かうのでしょうか。
今回の東 佐江子氏へのインタビューは、その問いに対する一つの力強い答えを示してくれたように思います。
東氏の仕事は、常に150%の感動を目指しているように見えました。その上振れとしての50%は、カップルの心のゆらぎを検知し、その感情にあわせた体験をデザインする、人間にしかできない領域から生まれるのでしょう。
これからのプランナーに求められるのは、タスクをこなす「調整役」ではなく、人の心を動かす体験を創り出す「演出家」であり「共感者」なのかもしれません。テクノロジーを賢く使いこなしながらも、最後の最後で人の心を震わせるのは、やはり人の熱量と深い思考以外にあり得ない。
変化の時代だからこそ、変わらない価値がより一層輝きを放つ。ウェディングプランナーという職業の未来に対する、1つの大きな指針を東氏は示してくださったのではないでしょうか。
株式会社TAIAN
エバンジェリスト 野村壮耶

